宮島達男              

 2007年7月13日

宮島達男のトークと対談を聞く。作家自身の口から直接制作意図や考えを聞くと、雑誌などで読む記事や文章と違って説得力があり明確に理解できる。出席してよかった。

 

 

 もともとパフォーマンスの表現から制作が始まったという。そのときの映像にはすでに『カウント』が入っていた。1から9まで声に出してカウントして、ゼロのときに水のたまったボールに顔を埋める。顔を上げたら、またカウントを始める。それを繰り返す。これには『0』をなくす意味がある。『0』によって完結、帰結にしたくなたった。 カウントのパフォーマンスを発展させるかたちで生まれたのが『カウンター』の作品。継続できて終りのない世界を表現できる新たな手段を求めた結果 、発光ダイオードに行き着いた。最初はアナログの操作だったのでひとつひとつの設定が微妙に異なり、同じリズムで変化するものはひとつとしてなかった。それは、それぞれが異なる存在として認識するうえでも大事なことだった。現在のデジタルになった時点でも、まったく同じリズムにならないようランダムにセットしている。直島では、個々の人の持っている生きるテンポを反映させたいとの思いから発光のリズムのセッティングを住民にお願いした。                      

 『0』の意味のなかには『死』があり、死を意識することによってカウントされる『生』を大事にしてほしいとの願いを込めている。最近の作品では鑑賞者自ら自分の死ぬ ときを想定して、残りの時間を秒単位で表わし、それがどんどんカウントダウンされていくものがある。これも残された時間を大事に生きて欲しいとの願いを込めた作品。自分で余命を設定するするところにも意味がある。

 『0』を発見した、作り出したインドにおいては限り無く動き続ける収縮と膨張の意味だったが、西洋に渡ってから『何もない』として解釈されるようになった。だから、もとの『0』は何もないというより、あらゆる方向に対しての無限の運動の意味に近い。しかし、『0』に対する一般 的な認識は西洋的なものだからあえて『0』を省いた。カウンターからは区切りがなくなり、終りもなくなっていつまでも動き続け、回り続ける輪廻の世界になった。                               

 ホスピスでの制作については、依頼のあった当初は乗り気ではなかった。しかし、入所者の「時間はある。何かに熱中したい」との意見を聞いてからやる気に変わった。そして、生と死をしっかり見つめてみると、どの人にとっても残された時間がどのくらいなのかはわからないわけで、たとえ余命を宣告された人でも、そうでない人より先に死ぬ とは限らない。誰もがいつ死ぬかわからないのだから『今を生きてる』という意味ではまったく対等な関係といえる。ホスピスにいる人達に哀れみを感じるのは不遜でありおかしいと気づいたのも大きく影響した。                                    

  自分が生き方としてのモデルになりたい。アーティストとしてどう生きるかの前に人間としてどう生きるかが大前提。自分を活かす手段、方法としてアートがある。政治的な部分を全面 に押し出す必要はないが自分の生きる姿勢を保つのは大切。平和を求める気持が柿の木プロジェクトにつながっている。アーティストとして生きるモデルをこれからの人達に伝えておきたい。近年、尊敬できて目標にできる人物が減ってきた。というより、見えなくなってきている。今は、茨城に住んでいて、そこから全国へそして外国へ出掛ける。東京でなくても一向に構わない。それもモデルにしたい。                        

 次のプロジェクトを天売島から始める理由は個人的な思い入れがかなり関係している。天売島には若いときの旅の思い出がたくさんつまっていて、落ち込んでた自分に元気と勇気を与えてくれたのも天売島だった。疲れ果 ててボロボロになったとき、さらに落ち込むためには北に向うのがいい。荒涼とした風景のなかに自分を立たせてとことん落ち込みたかった。とことん落ち込むと身も心も軽くなりそこが出発点になってくれる。そこでは多くの人達の暖かい心に救われた。だから、今回は自分自身の原点のひとつになった天売島に戻ってみたいと思った。人との触れ合いや結びつきを大事にするためにも『Art in you』を成功させたい。作品は自分と鑑賞者をつなぐ役目を果たしてくれるものであり、そこに希望を感じてもらえると嬉しい。『命』への想像を深め、アートのなかにそして自分のなかに『平和』が現れるよう一緒に創造したいというのが制作の目的であり願い。

 

 


 

 

この文章は『宮島達男のトークと対談』を聞いて、僕なりに受け止めた宮島達男の考えを次の日にまとめてみたものなので本人の主張と多少のずれがあるかもしれない。メモ、録音なしの独自のまとめとして読んでもらえるとありがたい。あえて自分の感想や意見を書かないようにしたが『作品から希望を感じ取ってほしい』『平和への願い』など共感できる部分が多々あった。